
ぼくは、ときどき玄関のほうを見ている。
ドアはまだ開いていない。
でも、なんとなくそっちのほうが気になる。
ぼくの家には、ママと兄ちゃんがいる。
兄ちゃんもママも
毎日どこかに出かけていく。
そして夕方になると帰ってくる。
家の中は、だいたい静かだ。
だから、小さな音でもわかる。
外の車の音。
誰かが歩く音。
玄関の近くの気配。
人には聞こえていない音も、
ぼくには聞こえている気がする。
ドアはまだ開かない。
でも、なんとなく
「もうすぐかな」と思うことがある。
だから、ぼくは玄関のほうを見る。
ただ座っているだけのときもあるし、
少しだけ近くまで行くこともある。
そして、ドアが開く。
ママが帰ってくる。
「ただいま」
その声を聞くと、ぼくは少しうれしくなる。
ぼくはしっぽを振る。
そして、またいつもの夜が始まる。
