ぼくはキッチンの前で止まることを覚えた

ぼくは、
キッチンの前で止まることを覚えた。

前は、
行けそうな場所はだいたい行っていた。

行けるなら行く。

それが、ぼくの中では
わりと自然なことだった。

でも、ある日から、キッチンの前には
“ここまでです”みたいな空気ができた。

最初はちょっと不思議だった。

さっきまで道だったところが、
急に道じゃなくなっていたからだ。

ぼくは何度か前まで行ってみた。
行けるかなと思って見てみた。
でも、やっぱり行けなかった。

ママは「ハルはこっちに居てね」と言う。
たぶん、あっちには行かないほうがいいらしい。

ぼくは少し考えて、
今はキッチンの前で止まることにしている。

ほんとうは、
あっちで何をしているのか少し気になる。

いいにおいがする時もあるし、
カサカサ音がする時もある。

たまに、これはぼくに関係あるのでは?
と思う音まで聞こえる。

でも、止まる。

前よりえらい。
たぶん、前よりちょっとだけ大人だ。

もちろん、ときどき近くまでは行く。
行くだけは行く。
でも、その先には行かない。

ママはそれを見ると、少し安心した顔をする。
だから、ぼくもそのままそこで座ってみる。

ほんとうは、
ただ向こうが気になっているだけの時もある。

入れない場所があるのは、少しだけつまらない。

でも、リビングは居心地が良いし
ぼくが自由にしていられる場所だ。

ぼくの寝る場所もあるし、待つ場所もある。
ママが見える場所もある。

だから、キッチンの前で止まるのも、
そんなに悪くない。

今日もぼくは、
キッチンの前まで行って、そこで止まった。

ちゃんと止まれた。

ちょっとだけ気になったけど、止まれた。

なので今日は、たぶんえらい日だと思う。

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