「ハルー」
呼んでみる。
返事はない。
もう一度呼ぶ。
しっぽの気配もない。
でも、こちらの気配を探るような空気は、確かにある。
そして少し間をおいて、
ゆっくりこちらを見るハルと目が合う。
その瞬間、思うのです。
——聞こえてたよね?
子どものころ、
犬は呼べば来るものだと思っていました。
でも実際は違います。
呼んでも来るときと、来ないときがある。
しかも、聞こえていないのではなく、
明らかに「判断している」様子。
その冷静さに、少し笑ってしまいます。
ボール遊びに夢中なとき。
お気に入りのおもちゃをかみかみしているとき。
何かのにおいを真剣に探っているとき。
そんなとき、
ハルは名前を呼んでも反応はありません。
世界が一点に集中しているような、
真剣な背中。
それを見ていると、
邪魔してはいけない気持ちになります。
何もしていないように見えるのに、
呼んでも来ないときもあります。
耳が少し動く。
こちらを一瞬だけ見る。
でも動かない。
どうやら、「今じゃない」
という判断のようです。
その落ち着いた態度に、
こちらのほうが試されている気さえしてきます。
来ないと思っていたのに、
気がつくとすぐそばに座っていることもあります。
呼ばれたから来たのか、
自分のタイミングで来たのかは分かりません。
でも、そっと隣にいる。
その距離感が、ハルらしいなと思います。
呼んだらすぐ来てくれたら嬉しい。
でも、来ない時間も含めて、
ハルとの暮らしなのだと思います。
自分のペースで動き、
自分のタイミングで近づいてくる。
その自由さが、
見ていて心をゆるめてくれます。
名前を呼んだのに来ないとき、
たぶん聞こえている。
でも、今ではないだけ。
ハルの時間の流れの中で、
ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
そんなやり取りもまた、
一緒に暮らす日常の中の小さな楽しみです。

